うちの子がうちにくるまで|No.59
母も私も犬を飼うことに反対でした――
そう語る作者でしたが、それは本当の気持ちの裏返しでした。
かつて愛犬の死を経験したために、別れの辛さばかりを考えてしまって、新しい犬を迎えることに前向きになれない母親。そしてその母親の影響から、子供の頃に犬を飼うことを許してもらえず、自分から犬を遠ざけるようになってしまった作者。
しかしそんな作者の家に、犬がやってくることになりました。
こんな方へ:動物は好きなんだけど、犬や猫を飼うのは心配|はじめてなので、もう一歩が踏み出せない|同じような経験をした方はいますか?
私は犬が好きではありませんでした
今日は我が家の愛犬、麿呂(まろ)のお話をしたいと思います。
麿呂は私にとって初めての犬です。私が産まれる前は、我が家はずっと犬を飼っていたそうなのですが、その子が亡くなってしまってからは、犬との縁がすっかり途切れてしまいました。というのも、母がその子との別れがあまりにも辛かったらしく、次の子を迎えることにずっと反対していたからです。
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実は私も、あまり犬は好きではありませんでした。どちらかというと嫌いといった方が良かったかもしれません。触るのも嫌なほどで、顔を舐められるなんて吐き気がしたくらいです。何故そうだったか自分でも定かではありません。
記憶をたどると、私がもっともっと小さかった小学生の頃に、ペットショップで「犬が欲しい」とお願いしたことがあったのですが、想像するにその時に飼ってもらえず、ワガママ子供のプライドに傷が付いて、犬を遠ざけるようになってしまったのではないかと思います。
こんな風に、母も私も犬が苦手(実際はそうではないことが後に分かるわけですが)な我が家に、また犬との縁が巡ってきたのは11年前の冬のことでした。
たまたま立ち寄ったショッピングセンターで柴犬を見かけた父が、よほど可愛かったと見えて、いきなり「柴犬を飼いたい」と言い始めたのです。
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当然ながら、母は絶対に反対です。私も母と同じで「死ぬ時のことを考えたらやめたほうがいいと思う」と言っていた覚えがあります。
そこで父は早期退職祝いという話を持ち出しました。多分単純な動機では飼えないと考え、自分の退職にかこつけたのではないかと思います。
母は父の理屈に納得はしませんでしたが、とにかく家族でペットショップに行ってみることになりました。父としては飼育経験がある母を、強引にでも連れて行きたかったのだろうと思います。そして私もこの時は、何故だか犬に会いに行くことを嫌とは感じませんでした。
隣の市には単独店舗の有名なお店があるので、どうせ行くのならばそこが良いだろうという話になりました。そこは以前に家で鳥を飼っていた時に、行った覚えがあります。
父はよほど柴犬がお気に入りのようで、HPでお店の確認をするだけでなく、私に電話をさせて、お店に柴犬がいるかどうかを聞かせるほどの念の入れようでした。
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さて、ペットショップに着いた私たち家族。
1月の寒空の下お店の入り口にはポニーがいて、私たちは「犬やめてポニーか牛でも飼うかー」などと冗談を言いながら中に入っていきました。
見渡すと店内には沢山の犬や猫が、1匹ずつケージに入れられています。大型店なので犬だけでも30匹くらいはいたように思います。いきなり沢山のワンちゃん、ネコチャンに見つめられて、私はなんとも言えない気持ちになりました。
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そして、目当ての柴犬ですが――
すぐにお店の方が、「先ほどお電話くれた柴ちゃん希望の方ですか?」と話しかけて下さり、「こちらですよー」と案内をしてくれました。
子犬の方も私たちに気が付いたみたいです。私たちが子犬の前に立つと、子犬はジャンプをしてアピールをし始めました。それがズーッと続くものですから、私は「この子大丈夫?」と思ってしまいました。私が我が家で初めての柴犬なのだという話をすると、店員さんは柴犬の性格について教えてくださいました。
やがて店員さんからは、「抱いてみますか」という言葉が……
ケージから出されて私に手渡された子犬――
「犬ってフワフワしている」
「小さい」
「温かい」
「折れちゃいそう」
次々と言葉が浮かんできました。そして「小さいから死んじゃうのでは?…」とも感じました。
子犬は抱っこした瞬間から私の口を舐めてきましたが、ぜんぜん苦ではなかったです!
それまで犬に舐められたら吐き気がするなんて思っていたことが、嘘のようです。
「この子にします」
家族で相談するまでもなく、即決でした。
実はこのペットショップ後で、柴犬専門の犬舎も検討していたのです。
しかしこんなにも早く、しかも最初に立ち寄った店に相思相愛の子がいるなんて――
――あの出会いは、運命だったのかもしれないです。
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そして、ずっと反対していた母はというと――
往きの車の中では渋々という顔だったのに、子犬の顔をみた途端にもう明るい表情になっていました。
結局その日は、私しか抱っこ出来なかったのですが、子犬が一生懸命私の顔を舐めている姿を見て、私がそれを可愛いいと思った時点で、母も納得してくれたのだと思います。母はいつか来る別れが嫌で犬を飼うことに反対はしていただけで、根本のところでは犬が好きなのです(* >ω<)
その日は、もう一つサプライズがありました。
契約書類を作る時になって、父が私に「書きなさい」と言ったのです!
父の早期退職祝いに犬を飼うはずだったのに――、いつの間にかそれが私の犬という形に変わっていました。
今思えば当時は、私がなかなか就職が決まらず落ち込んでる時期でした。父は始めから私を励ますつもりで、子供の頃にねだった犬をプレゼントしてくれる計画だったのかもしれないです。
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契約が済むと、もうその日のうちにお渡しです。
このお店ではケージに入れてのお渡しで、新しいケージかペットショップで使ってたケージかを選ぶことができます。我が家では、慣れてる匂いが残ってる方が良いだろうと考えて、ペットショップで使用していたケージで連れて帰りました。
うちの子になったのですから、名前を付けてあげなければなりません。
私は『柴太郎』がいいと主張しましたが、母が子犬の顔の真上に縦の線が入ってマロ眉みたいになってたので、『麿呂(まろ)』にしようと言いました。母は生まれが京都なので、京都=公家=マロ眉という連想もあったようです。
結局私が引き下がって、名前は『麿呂(まろ)』。
母が名付け親になりました。
家に来た初日の麿呂は、心細さからか尻尾が下がっていましたが、すぐに慣れて尻尾が上がり、それからはズーッと寝てました。それから先の麿呂は、困ったことはなにもしない子で、手間もかかりませんでした。今もその時のことははっきりと覚えています。
しかし時が経つのは早いもので、そんな麿呂もあっという間にもうすぐ12歳です。
やはり少し寝る時間が増えて、寒い時期はカーペットや毛布の上で気持ちよさそうに寝ています。ですが私は、まだ麿呂が老犬とは思いたくありません。
――麿呂へ――
我が家に来てからいろいろありましたね。
楽しいことも辛いこともあったと思うけど、私と一緒にいてくれてありがとう。
麿呂は自慢の家族です。
これからも今の調子で頑張って1日でも長く一緒にいようね☆彡
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そうそう、最後にもう一つだけ。
私はかつて犬嫌いだったにも関わらず、いつか犬を飼うことがあったら、シェパードやドーベルマンを飼いたいと思っていました。強く自分を守ってくれるイメージのある、大型のワンちゃんが欲しかったのです。
――でも、今ではもちろん、柴犬が私にとっての一番です。
――麿呂がうちにくるまで|おしまい――
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――うちの子がうちにくるまで・次話――
カンナがうちにくるまで
もう19年も前のこと――
2匹目の子が欲しいと思っていた矢先、新聞の『貰ってください欄』が目に留まりました。
「なになに、雑種の子犬?!」
元々雑種が好きだった私は、すぐに電話をかけました。
そして数日後にはもう、一人で車を飛ばしていました。
――うちの子がうちにくるまで・前話――
ミッキーがうちにくるまで
母のパート先の上司宅に、望まれない犬の出産がありました。
「産まれたばかりだけど保健所に」
そんな上司の言葉に反発し、我が家は子犬を引き取るのですが、実は母は大の犬嫌い。
しかし、母は変わっていきました。
ミッキーが母を変えたのです。
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――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
あんこがうちにくるまで
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
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