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【肛門周囲腺癌】発症から病名確定、進行 ~りゅうと家族のお話(1/4)~

りゅうと家族のお話(1/4)肛門周囲腺癌闘病記 りゅうの闘病と看取り

撮影&文|くみ
 
このお話は

17年前に家にやって来た子犬。
それは息子が涙ながらに『どうしても飼いたい』と訴えた末、迎えた子でした。
りゅうと名付けたその子犬は成長し、やがて病気になった家族に寄り添うような、優しい犬になっていきました。しかしそんなりゅうもやがて老犬に……
ある日りゅうの体には異常が見つかりました。最終的に告げられた病名は『肛門周囲腺癌』。
そしてりゅうと家族の闘病が始まりました。

このお話は、病気を抱えたりゅうの闘病と、りゅうに寄り添う家族を描いたもの。
りゅうと家族はどのように闘い、どのように生きたのでしょうか?
4話連続の1話目です。

こんな方へ:
老犬が病気になってしまった|突然のことで受け入れられない|別れを見据えた闘病に、どう対処すべきか?|同じような経験をした方はいますか?

 

2020年3月10日――
我が家の愛犬りゅうが空へと旅立ちました。
病気と懸命に闘い、最期まで精一杯生きたりゅうは、今も私と家族の誇りです。
今回は、そんなりゅうの闘病と看取りについてお話したいと思います。

 

 発症 2019年9月

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ある朝私は、いつものようにりゅうの散歩から帰ってきました。ふと見ると、りゅうの肛門に茶色の固まりがあるのが見えます。
「やだ、ウンチがついてる」
私はそれをお風呂で洗って落としてもらおうと、息子に声をかけました。
しばらくすると、お風呂で息子の声がします。
「母さん‼︎ りゅうのこれ、ウンチじゃない‼︎ えらいことになってる‼︎」

息子からの呼びかけに驚いて急いでかけつけると、お風呂で洗い終わったりゅうの肛門にあったのは、梅干し大の腫瘍が自壊し出血した血の固まりでした。その固まりがウンチに見えていたのです。
気持ちが悪いのか、りゅうもその箇所をずっと舐めていました。

 ●

私は慌てて、りゅうを病院に連れていきました。
先生の診断は『肛門腺腫』。去勢をしていない老犬に多く見られる病気だと説明がありました。

ただの肛門腺腫であれば命に関わるようなことはないらしいのですが、実際は全身麻酔で腫瘍を取ってみて検査に出さなければ、それが悪性か良性かはわかりません。取ってもまた出来る子がいますとも言われました。

――腫瘍を取れば綺麗なお尻になってまた楽しく過ごせるのかな?
  ――でも何度も腫瘍が出来る子もいるらしい。
――良性ならいいけれど、悪性だったら命に関わるのかな?
  ――検査で全身麻酔って、老犬のりゅうには厳しいよな。

次から次へと色んな疑問が頭をぐるぐると巡りました。

――先生は、腫瘍を切除した方がいいと言うけれど、それだけでいいのだろうか?
――切除して治るならいいけど、もし悪性だったらまた切除手術になるのかな?

 ●

私が様々な思いに押しつぶされそうになっている時、りゅうは自壊して出血する腫瘍を舐めることに夢中になっていました。我が身にどれほどのことが起こっているのかもわからずに――
あどけない顔をして、『お母さん、早く帰ろうよ』とでも言いたそうに私を見上げるりゅうの姿に、私は涙がこみ上げてきました。

「どうされるかはご家族のお気持ち次第…」
「よくお考えください。腫瘍を取る手術はいつでもします」
そう言われて、私たちは家に戻りました。

この時、一番気になったのは、痛い目にあって腫瘍を取ったとしても、また出来てくるなら再手術の可能性があるということ。何度も痛い思いをりゅうにはさせたくはありません。
――だとしたら今のままで良いじゃないか?
そんな風に思ったりもしました。

若い頃に去勢さえしてたら肛門腺腫にならなかったのかもしれないと思うと、りゅうに申し訳ない気持ちで一杯でした。

 

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病気が分かったこの日から、りゅうのオムツ生活がスタートしました。
それはお漏らしをするからつけるオムツではなくて、腫瘍からの出血を受け止めるためのオムツです。

りゅうにとってオムツをつけることは、不快で嫌なものだったに違いありません。オムツの中に鼻を入れて血を舐める姿は、痛々しいものでした。

初めのうち、私はりゅうに「舐めちゃダメ!」と叱っていました。そこからの感染症を恐れていたからです。しかし段々と、それで良いのかと疑問に思うようになりました。

私はりゅうに我慢ばかりさせてしまうのが可哀想になってきて、りゅうが気の済むようにさせてあげることにしました。

 ●

りゅうが散歩に行くときにはオムツをはずして歩くのですが、歩く度に血がポタポタと地面にも落ちるし、公園の砂地の上には座れません。ペットボトルにお花の水やりのじょうろを先に付け腫瘍に砂が付くとそのペットボトルで洗い流し、お尻拭きでそっと拭きます。しかしりゅうは腫瘍に水やお尻拭きが当たると痛いらしく「ハゥ!!」と鳴いて、嫌がってなかなか洗い流させても拭かせてもくれません。

家の中でたまにオムツを取って暫く乾くのを待とうとしても床の上や畳の上に血が落ちるので拭き回っていました。

 ●

オムツ生活に突入したものの、オムツだけだと直ぐに血だらけになって何度も換えねばならなくなるので生理用ナプキンを買ってきてオムツの中にナプキンを縦に当て横には2つに切ったナプキンを十字型に当てて舐めてずれても血が落ちないようにセットし、汚れたらナプキンを替える様にしていました。

オムツは人間の赤ちゃん用のオムツを買い、尻尾が通るように穴を開けりゅうに履かせましたが、りゅうはそれをしないとダメだと悟ってたのか諦めて大人しくオムツ生活してくれました。

考えてみたらあんな大きな腫瘍が肛門に出来て、取れたら良いのにずっとあって、舐めても舐めても血が出てきて…
今までしたことのないオムツをつけられて、どれだけ気持ち悪いかった事か…
りゅうの気持ちを考えると、辛くなりました。

 

 セカンドオピニオン 2019年11月12日

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りゅうの腫瘍は日に日に大きくなって、出血もひどくなっていきました。

何か治療の手立てを考えなければなりません。

かかりつけの病院の先生からは、腫瘍を取ることを勧められています。この先生は、りゅうが子犬の頃からお世話になっている方で、『肛門腺腫』と診断して下さった方です。
りゅうが角膜びらんになってからお世話になっている目の専門医にも、「腫瘍を取ってスッキリさせたら?」と言われました。
お二人とも『肛門腺腫』と思っていたのだと思います。

しかし、私達家族は迷っていました。
――先生方の言うことは正しいのだろうか?
――取ってしまえば、本当にりゅうが快適に過ごせるのだろうか?

 ●

「ここはやはり専門医に頼るべきかもしれない」
私はインターネットで腫瘍専門病院を探しました。そして、車で1時間ほどの病院を見つけ、主人と二人、その病院にりゅうを連れていきました。

レントゲン、血液検査、CT検査、局部麻酔による細胞診検査を一気に済ませて、りゅうの検査結果がすぐに判明しました。

『肛門周囲腺癌』

細胞診検査の結果は、通常10日ほどかかるとの話でしたが、CT検査の結果から先生にはその病気だとわかったようでした。さすが腫瘍専門医だなぁと驚きました。

 ●

肛門に腫瘍が出来て、それが自壊して出血、リンパにも転移していて、その腫瘍はすでに5センチほどの大きさになっている。その大きな腫瘍が腸を圧迫しているために、おそらく余命は3カ月くらいだろう、ということでした。

――余命は3カ月

先生からの話に、私の頭は真っ白になりました。耳では先生の話を聞いているのですが、頭の中でそれを理解することが出来ません。

「りゅうが死ぬ?あと3カ月で?なんで?どういうこと?だってりゅうは元気にしていて私たちのそばにいるのに?」
りゅうの余命と先生の話とが頭の中でうまく結びつきません。

検査を終えたりゅうは、よほど検査が怖かったのかぐったりとして震えています。
「りゅう、怖かったね。よく頑張ったね」
りゅうの頭を撫でながら、先生からの話が頭の中をぐるぐる回っていました。

 

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その後も先生からのお話は続きます。先生は淡々と症状を説明し、治療方法についても選択肢を提示して下さいました。

――抗がん剤治療をするか、しないか。
――肛門とリンパに出来た腫瘍を切除するか、しないか。

切除する場合、肛門の腫瘍は大きいためにかなりえぐり取るようになること。腫瘍が全部取り切れるかどうかはわからない。取りきれない場合は、またすぐに肛門には腫瘍が出来てしまうこと。リンパに転移した腫瘍は、大きいために、骨盤の骨を切って腫瘍を取り除いてから、また骨盤をつける手術になると説明がありました。

そして――、それらの選択をしたとしても、余命が半年に延びるだけ――

 ●

「今後どのようにされるかは、飼い主さん次第です。どうされますか?」

その場で結論を出せとは言われませんでしたが、こんな風に言われました。
「うちはどちらでも良いのですが、手術をする人は来るときから直ぐに手術をしてくださいと言います。迷われると言うことは手術をしない方が良いと思います。高齢だから手術自体にリスクはありますし、したとしても歩けなくなったりとか痛みが伴うことがあるかもしれません。決められるのは飼い主さんですが」

家族の思いは同じ方向だったので、主人と私が決断をするのにそう時間はかかりませんでした。私達はその場で「手術はしません。延命治療もしません」とだけ答えて抗生物質と痛み止のお薬を貰って帰りました。

その帰る車の中で、私達は改めて今後のりゅうの事を話し合いました。

「私たちが一緒に居て欲しいというエゴのために、りゅうを犠牲にしてはならない。余命を延ばすためだけにりゅうに痛い思いや苦しい思い、そして怖い思いをさせるわけにはいかない。手術をして歩けなくなって、生きる屍のようにはさせたくない。だから、延命治療はしない。痛みを和らげるための治療は全力でする。けれど、あとは自然の流れに任せよう」

――それが私たちの出した結論です。

 

 進行

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りゅうを腫瘍専門病院に連れていった後から、ゆっくりゆっくりとりゅうの体調は悪くなっていきました。そして、2019年の12月半ば頃には、りゅうの顔からは笑顔がなくなりました。りゅうが大好きだったボール遊びも、体力がなくなってしんどくなったのか、見向きもしなくなり…

りゅうは、常に自分のカラダが楽になるように体勢を変えているようでした。丸くなったり、伸びてみたり、時には仰向けになったり、カラダの半分だけをソファーから落としてみたり、足を高く上げてみたり。

そんな姿はパッと見ると可愛らしいのですが、実際はりゅうなりに、なんとかしてカラダの痛みや違和感から楽になれるように模索していたのだと思います。この頃には、私達家族に甘えてくることはなくなっていました。どちらかと言うと、1匹で耐えていたようように思えました。

 

 最後のお正月

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2020年、家族みんなで迎えたお正月。

「来年のお正月には、もうりゅうはここにはいない」
家族全員がそれをわかっているけれど、どこかそれに納得出来ないような、悶々とした気持ちを抱えて迎えたお正月でした。

家族は今までと同じようにりゅうと接して、笑顔を絶やさないようにと意識していました。そんな私たちの気持ちなどわかる筈もないりゅうが普段ほとんど甘えたりしなかったのに、年明けには私たちに甘え始め、家族のそばに来ては頭や身体を擦り付けたりし、それから自分が楽になれる姿勢を探しながら、廊下で寝そべったりしていました。

おせち料理の中からほんの少しだけもらえる固形物――わずかな魚や肉のかけら(5㎜程の大きさ)――にりゅうは、がっついていました。食べると言うより舐めるような大きさだと言うのに…

 ●

実はこの頃、りゅうの食事はお固形物ではなく粥やムースなど柔らかくて消化のしやすいものになっていました。

闘病の初めの頃は、なんとか病気に負けないように体力をつけてあげたくて肉や魚を食べさせていたのですが、全てが腫瘍の栄養になるのかどんどん腫瘍が大きくなり、それも叶わなくなっていきました。腫瘍が腸を圧迫して固形物が詰まるとイレウスになるかもしれないからです。そのためにりゅうのご飯はお粥になり、やがて、スープや流動食となっていったのです。

胃も腸も普通に機能しているのに、腫瘍に圧迫されているため沢山は食べさせてあげられません。ひもじい思いをしながら、じっと我慢をするりゅう。もう沢山の美味しいものは貰えないのだと、自分でもわかっていたのでしょうか。匂いを嗅いでは、スッとご飯皿から離れていくようになりました。

こんなにも辛く悲しいお正月を迎えたことはありませんでした。

 

――りゅうと家族のお話(1/4)つづく――

作者:くみ

――次話――

りゅうと家族のお話|2/4

りゅうの『肛門周囲腺癌』は段々と進行しました。
食事はいつしか流動食に。
食べる喜びを失くしながらも、頑張るりゅう。
しかし恐れていたことが――
りゅうを激しい痛みが襲ったのです。
「その時がきた」
家族はある決断に思いを馳せるのでした。

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 りゅうがうちにくるまで

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と訴えて泣きました。

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