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【肛門周囲腺癌】りゅうを送る日 ~りゅうと家族のお話(4/4)~

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りゅうと家族のお話(4/4)肛門周囲腺癌闘病記 りゅうの闘病と別れ

撮影&文|くみ
 
このお話は

17年家にいたりゅうは、家族に見守られながら旅立っていきました。
泣きたいのに、不思議と涙は出てきません。
りゅうの頭を撫でながら、1つ1つ、りゅうとの思い出を辿りました。

いつの間にかりゅうの体は、冷たく硬くなっていました。
――数時間前までは、柔らかくて温かかったのに。
その事実に、本当にりゅうは死んでしまったんことを、思い知らされるのでした。

りゅうを送る日――
頭の中にはずっと『ひこうき雲』が流れていました。

4話連続の最終話です。

こんな方へ:
老犬が病気になってしまった|突然のことで受け入れられない|別れを見据えた闘病に、どう対処すべきか?|同じような経験をした方はいますか?

 

 通夜の夜

りゅうが旅立ってから、翌日に荼毘に伏すまで、りゅうの体の腐敗を考えて暖房器具は使わないようにしました。棺の中には、りゅうが使っていた毛布を敷いて、りゅうの枕も入れて、りゅうを横たえ保冷剤をお腹の辺りに置き――

かけ毛布をかけると、まだ生きて眠っているようにしか見えませんでした。
体はまだ柔らかく温かくて、毛も生前と同じようにふわふわ。

小さくて、可愛くて、愛おしくて――
今にもうっすらと目を開けそうでした。

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 ●

お気に入りの『りゅう おやつ命』と書かれた洋服をりゅうの体の上に置いて、その上には、りゅうのイメージカラーの黄色の花束。そして横には桜の花。

その桜の花は息子が息子が買ってきたものでした。
「今年は一緒に行けなくなったけど、ひと足先にりゅうちゃんだけお花見やな」
そう言いながら、入れてあげたのです。

一度はお花見が出来るかも、と期待していた時もありました。だからこそ、その桜の花は、美しくも悲しく、そして儚く見えました。主人は、りゅうが寂しくないように、といくつかの曲を繋ぎ合わせエンドレスで流し始めました。

 ●

家族は皆、口数が少なくなっていました。
「今夜は寝ずに、ろうそくとお線香を絶やさずにりゅうを見守ろう」
そう言っていたのに、主人が2時頃泣き寝入りして脱落。
朝方4時過ぎには息子が脱落。やはり、最後はりゅうと私の2人だけになりました。

小さなりゅうの頭を撫でながら、2人だけの思い出を一つ一つ思い出しながら話しかけました。たまに出かけた2人しか知らない路地の散歩道、毎年音しか聞こえなかったの空き地での音だけ花火大会。りゅうがいきなり喰らった猫パンチの話。

りゅうが角膜びらんで何度も目の手術をした時のこと。

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目の手術をしたりゅうのサングラス姿です
角膜びらんになったので、何度も目の手術をしました

 ●

あの時、りゅうは目が痛くて涙が止まらなかったのに、必死に我慢して耐えていたな…それを思い出すと胸がきゅっと痛くなりました。

「いつもりゅうとおかあさんの2人だけが多かったねぇ。今年はお花見に行けなくなったけど…もう随分と前から、毎年、おかあさんはおつまみと熱燗をボトルに入れて、りゅうにはおやつとミルクを持って行って2人で夜桜を見たのにね…」
泣きたいのに不思議と涙は出てきませんでした。

この頃になると、りゅうの体は触ると冷たく硬くなっていました。
――数時間前までは、柔らかくて温かかったのに。
――この同じ場所には、病院に行く前までは生きているりゅうが寝ていたのに。

本当にりゅうは死んでしまったのだ、と否が応でも悲しい現実を思い知らされました。

 ●

りゅうが寂しくないようにと主人が選んだ曲の中に、松任谷由実(荒井由実)の『ひこうきぐも』がありました。

『空に憧れて♪ 空をかけてゆく♪あの子の命はひこうき雲♪』
そのフレーズが、何度も何度も流れて――

切なくて――、悲しくて――

そういえば――
亡くなる数日前から、りゅうはベランダで外ばかりを見ていたなぁ。
空を見てたかどうかはわからないけれど――
歌と共に、りゅうのその姿が蘇ってきました。
りゅうはもっともっと外を歩いたり、走り回ったりしたかっただろうに…

ろうそくとお線香を絶やすことなく夜を過ごして明け方6時過ぎ。
気温がかなり下がってとても寒く、ダウンの上から毛布をかぶって、りゅうと過ごす最後の夜が静かに明けていきました。

 

 空を駆けていく

りゅうとの最後の夜が明けた翌日は、気温は低かったもののお天気は晴天。
この日、午後3時にりゅうを荼毘に伏すことにしていました。

午後1時――
りゅうの棺を車に乗せて、りゅうの好きだったお散歩コースを最後に見せてあげようと、4ヶ所を廻りました。その次に、りゅうの大好物のファミチキと豚まんを買って、りゅうの顔の近くに置いてあげました。
「これでお空にいくまでの間、ひもじい思いはしないよね」

 ●

それから、自宅近くの一番多く遊んだ公園にシートを敷いて、棺をその上に下ろして、しばらくの間、家族みんなで過ごしました。

ふと、りゅうの顔を見ると、明け方まではシュッと細いいつものりゅうだった顔が、膨張しはじめていました。もうガスが溜まってきたのか、と驚きながら、顔が変わってしまう前丁度良い時に、りゅうを空に送ってあげられるな、とホッとしました。

 ●

その後、葬儀場では、用意された沢山の花を棺の中に入れ、綺麗な花に埋もれた可愛らしいりゅうが出来上がりました。

りゅうのお葬式は、5分ほどと短いものでした。

「最期のお別れです。お顔をよく見てあげてくださいね」
係りの方からの言葉に、私たち家族は、何度も何度もりゅうの頭を撫でてあげました。

そして、りゅうは――、空へと旅立っていきました。

 

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葬儀の間中、主人はずっと泣き通しでした。

最初、あんなに犬を飼うことを反対していて、元気な頃はりゅうの世話を私に任せっぱなしで家を留守にし、家にいる時にだけお散歩に行ったり、遊んだりしていたのに。
その主人が、これほど泣くなんて…
その全く想像していない展開に、私も涙が止まりませんでした。

息子にしても、あんなに切望してりゅうを迎えたのに、成長と共に家にいることは少なくなり、自分のことだけで精一杯、そのためりゅうは私に丸投げでした。

 ●

りゅうの16年4カ月はほとんどの時間を、私と密な生活を送っていました。
――私がペットロスでどうにかなるのではないか?
そう病院の先生が心配してくださっていたほどでした。

それなのに、葬儀の間、主人が号泣していることで逆に私が冷静でいられたことにとても驚きました。神様はその辺りのバランスを、うまいこと作っているものです。

 ●

りゅうの余命宣告を受けてからの4カ月は、私たち家族にとって、深く深く心に刻まれた大切な4カ月だったと思っています。りゅうだけの為に、全員が愛情と心と時間をりゅうに注ぎ込んで、りゅうが寂しくならないように、りゅうが苦しまないように、全力を尽くしました。

そして、最期の時には家族全員でりゅうを看取れるようにと願って――

――その思いは、しっかりと現実のものとなりました。

 ●

 焼き上がったりゅうの遺骨は、病巣のあった腰骨が茶色く変色して、今にも壊れそうなくらいに薄くなっていました。
「こんな状態になった腰で、りゅうは必死で歩いていたのか…」
そう思うと、やっと泣けてきました。

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りゅうを送る日――
私の頭の中にはずっと『ひこうき雲』が流れていました。

「白い坂道が空まで続いていた♪

    ゆらゆらかげろうがあの子を包む♪

    誰も気づかず ただひとり♪

    あの子は 昇っていく♪

    何もおそれない そして舞い上がる♪

 

    空に憧れて 空をかけてゆく♪

    あの子の命は ひこうき雲♪」

 

りゅうは、この歌のように、一気に、空へと駆けていきました。 

 

 りゅうに想う 

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「安楽死」はとても難しく大事な問題です。
人も犬も同じように病気になると痛くて辛くて苦しい思いをします。
人は自分で意思を伝えられるけれど犬は喋れないからただひたすら我慢して耐えてるだけだと思っています。
人にはそれぞれの感じかたや考え方があるから、どれが正解かなんてありません。飼い主が決定すればそれがその子の運命を決める事になります。
私は、私達家族が迷い悩みながらも下したこの決断を、間違ってはいないと思っています。

 ●

息子は「本当に家族になってくれてありがとう。ととにかくりゅうに伝えたい。」と言い、主人は「言葉に出来ない位たくさんのものをりゅうは与えてくれた」と言います。
りゅうは私の癒しで私の大事な可愛い子供で私の宝物でした。

りゅうと過ごした日々はとてもとても幸せでかけがえのない時間でした。家族の思い出と共にりゅうは生き続けていると思います。

 ●

ツンデレで優しいりゅうは、亡くなってからも何度か夢に出てきてくれました。
1度は匂いとして現れて、1度は真夜中に鳴き声を聞きました。空耳と笑う人もいるかと思いますが、私はその不思議な現象をりゅうがここにいるよと教えてくれたサインだと今も信じています。

りゅうは最後まで必死で生きてその生を全うしたのだと思います。
りゅう、本当にありがとう!!ずっとずっとずっと大好きだよ!!
えらかったよ!!りゅう!!
本当にりゅうは最後まで立派な柴犬でした。

 

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あれから1年――

あの頃の気持ちに戻って考えると、今でもやはり悲しくなります。
まだ振り向けば、ちょこんとりゅうがいるようで――

 

 

――りゅうと家族のお話(4/4)了――

作者:くみ

 

――前話――

りゅうと家族のお話|3/4

その決断はつらいものでした。
まるで命の期限を決めてしまうようで……
しかし骨が溶け激しい痛みに耐えるりゅうを、そのままにはできません。
りゅうは、全てを受け入れているような気がしました。
そして最期は、微笑んでいるように見えました。

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――この連載の第1話です――

りゅうと家族のお話|1/4

17年前に家に来たりゅうは、優しくて立派な柴犬に育ちました。
しかしそんなりゅうも、やがて老犬に――
ある日、小さな異変に気が付きました。
――急いで病院へ
最初の診断は『肛門腺腫』
しかし実は『肛門周囲腺癌』
そこから辛い闘病が始まりました。

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 りゅうがうちにくるまで

本話のりゅうさんを、家族に迎える時のお話です。

あれはもう17年も前のこと。
一人っ子だった息子が『犬を飼いたい』と言い出しました。
しかし主人は犬を飼うことには慎重です。
家族で出かけたペットショップの帰り道、息子は
「僕も兄弟が欲しい! 僕に兄弟をください! 」
と訴えて泣きました。

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 ペットとの別れについて

悲しみと悩みは別々のもの

”悩み”という言葉の中には、色々な意味が含まれていますね。
”悩んでいる”って言えば、色んなことが説明できて便利。
でも時にそれは、その言葉を使う人も惑わせて。
解決できるものを、解決できなくしてしまうような。
だから、考えてみた。”悩み”って何?

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