うちの子がうちにくるまで|No.57 
「犬を飼いたい!」そう思って、引っ越しを決意する方は多いのではないでしょうか?
このお話もそんな家族のエピソード。作者はペット可のマンションを購入したものの、なかなか新しい家族には巡り合えません。しかし、それも当たり前のこと。10年以上も一緒に暮らす家族を決めるのですから、犬なら何でもいいというわけにはいきません。
休みの度にペットショップ回るのですが、なかなかピンと来る子には出会えません。
そのまま3か月が過ぎた頃でした。とうとう運命の日がやってきます。
動物は好きなんだけど、犬や猫を飼うのは心配|はじめてなので、もう一歩が踏み出せない|同じような経験をした方はいますか?
新しい家族を迎えたいと思いました
今日は我が家の思い出のワンコ、ピコのお話をしようと思います。
ピコは私達夫婦にとって初めてのワンコでした。しかしお互いが犬未経験というわけではありません。夫婦共それぞれが動物好きの家庭で、ワンコと一緒に育ってきました。
私の実家では、私が生まれた時にはスピッツと猫がいて、少し間を置いて白柴のぺぺ、ヨークシャーテリアのペコ、その間文鳥のちゅん助ちゅん子、小桜インコのポコが家族でした。主人はチン、ヨークシャーテリア、猫、ポメラニアンと一緒だったそうです。
しかし結婚をしてからは、お互いに実家を出て社宅に入ったので、ペットは飼えませんでした。それからは一転して犬のいない2人暮らしです。
時がたち、結婚7年目のことです。子供が居なかった私達は、二人ともが犬好きということもあって、新しい家族(つまり犬)を迎えたいという気持ちが募っていました。
「犬を飼いたいね」
どちらからともなくそんな言葉が出たのは、自然の成り行きでした。
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ちょうどそんな時のこと――
私たちはその時代では珍しい、ペットと住めるマンションが販売になってるのを知りました。しかも都合の良いことに場所は同じ市内。それならば生活環境も大きく変えずにすみます。抽選ではありましたが、応募をしてみることにしました。
応募したのは、我が家を含めて4件。
――そして、我が家が見事に当選!
理由はわかりませんが、どうやら担当の方が我が家を優遇してくださったようでした。これも強い御縁を感じました。
とにかく、これでワンコを迎える条件が整ったことになります。
私たちはマンションに引っ越した1ヶ月後には、もうあちらこちらのペットショップを渡り歩き始めていました。仕事の休みの日にというと、決まってペットショップ巡りをする日々です。
いくつかの犬種は絞ってましたが、始めの内は特にコレとは決めていませんでした。気になる子が2頭いて迷いましたが、実家にいる子と同じ犬種であることや、身体が弱そうに見えたりで決断に至りませんでした。
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そうこうしているうちに、トイプードルが第一候補に浮上してきました。色々雑誌を見たり、ペットショップを巡るうちに、その可愛さに惹かれていったのです。毛に覆われてはいましたが、ヨチヨチ歩きの感じがして、華奢だなぁって思った事を記憶しています。当時はまだ今のように人気が出る前で、小さいプードルは珍しかったですし、毛があまり抜けないというのもポイントでした。
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そうそう、犬種とは別に女の子ということにはこだわりがありました。夫婦ともに子供の頃から犬と触れ合ってきたからこそ、現実的なことを考えてしまうのですが、室内犬なので、オシッコのことを考えたらやはり女の子という選択でした。犬種はあれこれと迷いましたが、それだけは最後までブレませんでした。
なかなか希望の子に巡り合えない中、行く先々のペットショップでは「良い子が来たら連絡下さい」と伝えてありました。しかしその連絡もすぐには来ません。
「難しいものなんだな」
と思いました。何しろこれから先10年以上も一緒に暮らす家族を選ぶのですからね。
しかし、そんな私たちにも、運命の日がやってきます。
――あれは家族を探し始めて3か月後の3月4日、ハッキリと記憶しています。
その日の私たちは、ペットショップ巡りではなく、街に買い物に出ていました。
そしてお昼時になろうとする頃、主人が急に思い立って、「ペットショップに電話をしてみよう」と言いました。
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このお店は個人経営のケンネルで、以前に1回だけお邪魔した時にはトイプードはがおらず、ピンと来る子もいませんでした。当然「良い子が来たら連絡下さい」のお願いはしてありましたが、その後も連絡は無くて、半ば諦めていたところでした。なぜそこに電話をしたかというと、その日の主人の直感です。
ですがこの日は違いました。何と『名古屋から札幌を経由して今着いた子が居る』と言うではありませんか。もう居てもたってもいられず、お昼ご飯も食べずに速攻で車に乗ってお店に向かいました。
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「どんな子だろう?」
車の中で気持ちが逸ります。電話でのお話では、そのワンコは一般のご家庭で生まれた子だそうです。毛色はアプリコット。希望していたのはレッドですが、アプリコットはあまり見たことのない毛色。そこにも惹かれ、なんだか会う前から御縁があるような気がして、ドキドキしてきました。
そのペットショップは繁華街の少し外れにあります。私たちは駐車場に車を駐めると、速足でこじんまりした店舗に向かいました。
扉を開けて中に入る私たち――
先ほど電話をした者だと告げると、すぐにご対面です。その子はまだゲージにも入っておらず、本当に来たてのままの長細い段ボール箱、にダックスとチワワと3匹一緒に入れられてました。
3匹の中で一番奥に居るのが目的の子です。私がしゃがみ込むと、その子は他の2匹を乗り越えて私に近づいてきました。まるで自分が、私の所に行くのは当然の如く思っているかのようでした。そして私が差し出した手の指先を、なんの疑いもなくペロペロ舐め始めました。
「抱いてみてもいいですか?」
許可を得て抱き上げると、その子は軽くて毛がホワホワしていて、綿飴を掴んでいる風でした。主人と2人で顔を近づけると、じっとこちらを見上げました。私たちはその瞳に釘付けになりました。2人とも無言のままでしたが、心の中では『あーっ』というお互いの心の声が聞こえます。言葉にはしなくても『もうこの子だよね』って頷き合っていました。
「うちに来る?」
私の問いに、見上げた目がバチッと合って…もうその瞬間我が子!
私たちはその子を抱きしめました。
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その場で手続きを済ませると、その子は段ボールに入れられて私に手渡されました。
私たちはその店で、犬を飼うために最低限必要な物を買うと車へ。帰り道にも色々と思いついたものがあったので、ホームセンターに寄って買い足しました。
家に向かう道――
段ボール箱の蓋を開けてあげると、その子は箱の淵に掴まり立ちしながら、ジッと前を向き、流れる景色を不思議そうに見ていました。今でもその情景は目に焼き付いています。
家に着くと、早速段ボール箱から出してあげました。我が家はフローリングだったので、滑って前に思うように進めません。苦戦していたので絨毯の所に連れて行くと、これまた毛足の長い絨毯に埋もれてしまいました。歩き辛そうな姿がおかしくて、主人と2人で笑ったのを覚えています。
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名前は、私の家族だった子達がパ行だったのでその流れで考えてましたが、HAWAIIが大好きだったのでハワイ語で何か良い名前ないかなぁと辞書を見ていたら、PIKO(おへそ)とあり、正に家族の中心「家族のおへそ」っということで即決しました。
ピコと呼んだら、今までそう呼ばれたいたかのように尻尾をプリプリ振って、微笑んだように見えました。
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こうしてうちの子になったピコですが、まずはトイレをすぐに覚えてくれた事にはビックリしました。またピコは家に来たての頃は、「この子はいつ寝るんだろう?」と思うくらい寝ない子でした。成長に差し支えるのではと不安になった程です。毎日元気にしていたので、やがてそんな心配は消えていきましたが――
また、お水をあまり飲まない子だったので、はじめのうちは気がかりでした。
やはり犬には一匹ずつ個性があるのですね。
だんだんと我が家の暮らしに慣れてきたピコ。しかしそのピコは、うちにきて2週間が過ぎたころに病魔に襲われます。下痢や嘔吐を繰り返して、みるみる間に痩せていったのです。
動物病院で診てもらったところ、なんとパルポウィルスが陽性と出ました。親犬から早く離されたことで免疫が確立せず、飛行機の中で感染したのかもしれないと言う事でした。お医者様はなんの治療もせず、血液検査さえもすることなく、もう諦めろと言わんばかりの態度です。
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ピコの体はギロギロに痩せて、もう骨格が分かるくらいでした。それでもピコは、覚えたてのトイレに這ってでも行こうとします。その姿がいじらしくて、「もう良いよ。ここでして良いんだよ」と抱きしめました。
私はペットショップに来るまでの過程を聞きたくて、電話をしました。すると先方からは「代わりの子を用意します」との返事が……
私は心の中で叫びました。
「目の前のこの子を無くす事なんて考えられないし、したくない」
そして必死の思いで辿り着いたのは、隣の市の病院でした。
休診日で、研修医の先生しかいなかったのですが、その先生が「預かります」とおっしゃってくださり、その言葉を信じて消えそうな命を託しました。
入院中は興奮するといけないとのことで、面会はさせてもらえませんでした。
ご迷惑とは思いましたが、病院には朝と夕方に電話をして、様子を教えていただいていました。折角新しい環境に慣れ始めていた時だったので、ピコが私たちの姿が見えない事に心細さを感じてないだろうか? 見放されたと思っていないだろうか?
とても不安でした。
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やがて先生から、ピコが快方に向かっているというお話をいたときには、私は奇跡が起きたと思いました。それまでの不安は一気に拭い去られ、喜びと感謝の気持でいっぱいです。涙が止まりませんでした。
――入院は6日間に及びました。
そしてピコは先生方の御尽力により、病に打ち勝ちました。後に先生方からはこう言われました。「今だから言うけど98%ダメだと思いました」と――
また「この子の生命力はすごいよ」とも仰っていただきました。私はピコを通して生命の大切さ、強さ、人の優しさを学んだように思います。
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家に来てすぐに、生死の境を彷徨うことになったピコ。
10歳になってからは、2度ガン宣告を受けましたが、2度とも手術と抗がん剤治療を乗り越えてくれました。そしてピコはとても長生きをしてくれて2019年5月30日に、19歳4ヶ月9日で私たちのもとから旅立っていきました。
今もピコを迎えた時のことが、鮮やかに蘇ります。
――ピコへ――
パパとママの子になってくれて本当にありがとう。
今までも、これからも、ずっとずっと大好きだし愛してるよ。
――パパとママより――
――ピコがうちにくるまで|おしまい――
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――うちの子がうちにくるまで・次話――
ミッキーがうちにくるまで
母のパート先の上司宅に、望まれない犬の出産がありました。
「産まれたばかりだけど保健所に」
そんな上司の言葉に反発し、我が家は子犬を引き取るのですが、実は母は大の犬嫌い。
しかし、母は変わっていきました。
ミッキーが母を変えたのです。
――うちの子がうちにくるまで・前話――
ミルティがうちにくるまで
17年前、我が家はコンビニを始めた。
家族総出で忙しい毎日。
そこに三女が「犬飼いたい」と言い始めた。
子供の頃、実家にはいつも犬がいた。
だから願いを叶えてやりたい。
しかし我が家には――
『犬を飼ってはいけない』という義父の掟があった。
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――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
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