うちの子がうちにくるまで|No.36 & 37 - 1
今回はエリーのお話
誰にでも忘れられない犬がいますね。これまで何匹も犬を飼った方。ベテランの飼い主さんであっても、歴代のどんな犬にも愛情を注いできた方にも、とりわけ忘れられない一匹と言うのがあるものです。
今回のお話は子供の頃から身の回りに犬がいて、しかも多頭飼いをしている飼いさんのお話。多感なころを一緒に育った、思い出のワンコのお話です。
こんな方に:ゴールデンレトリバーってどんな犬?|飼いやすい犬なの?|初めて飼うのが不安|経験者の話が聞きたい
私には、今も忘れられない2匹の犬がいます。ゴールデンレトリバーの ”エリー” と、その子供の ”つきの” です。
エリーとつきのは、私に色んな事を教えてくれました。
『エリーとつきのがいたから、今の私がある』
そう断言しても良いくらいに、2匹は私にとって思い出深い犬たちなのです。
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我が家は家族皆が犬好きで、私が子供の頃から、家にはいつも犬がいました。
このお話の主人公であるエリーは、歴代で7番目の犬です。
エリーを飼うことになったのは、突然のことでした。
ある日親戚の家から、子犬でもらわれてうちに来たのですが、その経緯が少々変わっていました。
親戚は土建屋さんを営んでいるのですが、ある日その親戚の会社の近くにブリーダーさんが引っ越してきました。そしてご近所ということで、親戚は工事を依頼されたのですが、そのあとで波乱が――
何とそのブリーダーさんは、工事代金の支払いができないと言うのです。
話し合いの結果、代金の代わりに、ゴールデンレトリバーの仔犬2匹を差し出され、仕方なく親戚はその2匹を引き取ることに――
「2匹も飼えないので1匹あげる」
そう言われてやってきたのが、我が家のエリーでした。
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当時の私は高校3年。丁度その頃はゴールデンレトリバーが1番人気の時です。
まさか我が家に、そのゴールデンレトリバーやって来るなんて思ってもみなかったので、素直にうれしかったです。
当時のエリーの月齢は、生後僅か40日経つかたたないかの時。
今では考えられませんが、エリーは哺乳瓶でミルクを飲ませないといけないくらい小さなときにうちに来たのです。
といっても、私はその場には立ち会ってはいません。ちょうどその時には、学校に行っていたからです。母にその時の様子を聞いたら、親戚のおっちゃんは抱っこして持ってきたそうです。アポなしでやってきて、「はい、あげる」っていうくらいの感じだったらしいです。
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私が学校から帰ると、金色の綿毛みたいな子犬が台所の母の足下にいました。
私の顔を見るなり母は、「臭かったから洗ったよ」と言いました。
抱き上げてみると、母の言葉通りその子は、シャンプーの良い匂いがして、ふわふわの毛並みでした。今もあの感触は覚えています。エリーの方はというと、嫌がるわけでもなく、人見知りするでもなく、キョトンとしていました。きっと生まれたばかりのうちに、目まぐるしく環境が変わったので、本人も何が起きているのか分からなかったのでしょう。
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可愛い子犬に大喜びする私に反して、父と祖父母は無反応でした。
でも今思えば、あまりの可愛さに、私が独り占めしてしまって、触らせてもあげなかったような気がします。エリーは誰も何も言わないうちに、我が家の中で私の犬のようにになったのでした。
そうそう、そのエリーの名前ですが、呼びやすくて、祖父祖母でも分かるようにということで、母と私とでその名前に決めました。
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ところで、エリーが来るまでの間ずっと、我が家では犬は外で飼育するものだと思っていました。エリーが来た時には5匹目の子、雑種のぽんたと、6匹目の子、ハスキーのジョンがいたのですが、その2匹も外での飼育です。それぞれに犬小屋があって、裏庭には運動ができるように囲いがしてありました。庭で放すこともありました。
さて、エリーはどうるするか?――、ということになるのですが、まさか生後間もない幼犬を外に置いておくわけにはいきませんよね。
こうしてエリーは、我が家で7匹目にして初めての、室内犬になったのでした。
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子供の頃から犬と暮らしてきた私ですが、それは何となく周りにいたという感覚でした。子犬で迎えたエリーが、私にとって初めての犬であり、初めて自分が飼い主であることを実感させられた存在でした。
初めての大型犬で、初めての室内犬で、初めての血統書持ちです。犬に哺乳瓶でミルクあげるのも、離乳食も、上下関係を教えるのも初めて。すべての「初めて」がエリーでした。手探りの中で、エリーと一緒に勉強したのだと思っています。
当時の私は思春期で、一般に言えば、大人への意識が芽生える時期です。でも私は親に反抗するよりも先に、エリーのお世話に一所懸命でした。今思えば高校時代を、親とギクシャクする事もなく過ごせたのはエリーのお陰だと思っています。私は一人っ子なので、エリーのことを、まるで姉妹のように感じていました。
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エリーと先住犬たちとの関係ですが、ゴールデンレトリバーはきっと挨拶も上手なんだと思います。仔犬の時から、ぽんたとジョンとは良い関係で、ケンカをしたことはありませんでした。男子と女子だったからかもしれません。
ぽんた、ジョン共に去勢しておらず、エリーも生涯避妊はしなかったので、ヒートの時は要注意でしたけれど。
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そんなエリーでしたので、性格は穏やかで、しつけに手を焼くということはありませんでした。しかし何故だか、呼び戻しだけはまったくできずでした。
そのエリーらしいエピソードが1つあります。ある日エリーと、近所の川沿いを散歩をしていた時のことです。その日は堤防の周囲に人影はなく、河川敷はエリーを遊ばせるには、格好の場所に思えました。
そこで私は、リードを離してみようと思いたちました。
「ゴールデンレトリバーやし、頭ええし、エリーは言う事聞いてくれるから大丈夫」
そう思ったのです。
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ドキドキしながら、恐る恐るリードから手を放す私――
で、どうなったかというと、ヤツは逃げました。川まで一目散にダッシュしてバッシャーン!です。
きっと飼い主が不安定だと、ワンコにも伝わるんですね。飼い主と言うのは、どんなときでも「ドーン」と構えていないといけないのです。
――というのは、後になって考えた事。その時にはそれどころではありません。とにかくエリーを捕まえなくては!
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「あんたゴールデンレトリバーやろ? 頭ええはずやん? 言う事聞いてくれる子ちゃうの?」
そんな私の思いもむなしく、一人ではどうすることもできません。やむなく私はエリーをそのままで急いで家に帰り、母を連れてくることにしました。もう呼んでも来ないと分かっていますから、エリーをおびき寄せるオヤツも欠かせません。
現場に駆けつけると、幸いエリーはその場にいました。こちらの心配をよそに、楽しく遊んでいたようです。口の周りが泥だらけで、まるでお菓子のカールの ”カールおじさん” みたいな顔になっていました。
「エリー!!!」
声を掛けると、エリーはキョトンとして『え? お母さんきたん?』という顔です。
「おやつ食べる?!」
と、手に持ったオヤツを見せてやると、すぐに寄ってきて無事御用となりました。
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あまり綺麗な川ではないので臭い臭い!
お家でシャンプーしながらも、母と2人で「エリちゃんくさい!」って笑いながらガシガシ洗いました。
そうそう、このエリーさん。NGワードがありまして、「バカ」と「クソババァ」って言うと切れて吠えてきます。しかし「アホやなー」って言ったらしっぽ振ります。
言葉の違いは認識しているみたいなんですけどねえ。
一体、頭が良いのやら、良くないのやら……
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悪い子のエピソードを書いてしまいましたので、エリーのために良い話も付け加えようと思います。
当時私は、パールというインコ(コザクラインコ)を飼っていたのですが、その鳥かごをエリーのそばに置いて、「掃除をしてくるからパールを見といて」と頼んだことがありました。
随分と時間がたったと思います。エリーのところに戻ってみると、エリーはずっと鳥かごの真横で寝ころんでくれてました。エリーは呼び戻しが出来ない以外は、とても良い子だったのです。
こんな風にして、エリーとの日々は過ぎていきました。
高校卒業の日のことです。エリーは母と一緒に、車で学校まで迎えに来てくれました。今もその時のことを思い出します。
いつもなら制服に毛が付くので、エリーは後部座席。私は助手席と決まっていました。しかし当日は、もう制服着るのも最後です。私はエリーと一緒に後部座席に乗り込みました。エリーは大喜びで、私の顔ペロペロしまくりです。
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車が、歩いて帰っている同級生たちの横を過ぎる時のことです。
私は窓を一杯に開けて、エリーと一緒に顔出して大声で「バイバーイ!!」と声を掛けました。皆、私がゴールデンレトリバー飼ってる事を知っています。
「え? うそ!」
「かわいいー!」
「バイバーイ!」
口々に、返事が戻ってきました。
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私はエリーを「かわいい」って言ってもらえたことが、何よりも嬉しくて誇らしくて、そんな子といつも一緒にいられるんだ思うと、もう優越感でいっぱいでした。
思えば私とエリーは、大人への階段を一緒に上っていたのですね。
さて、次はエリーの子供の、つきののお話をしようと思います。
――エリーとつきのがうちにくるまで(1/3)・エリー編――
――エリーの出産編に続く――
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――うちの子がうちにくるまで・次話――
超オーバーサイズに育ったエリー
「エリーの子供が見たいなぁ」
そう思った私と母は、ブリーダーさんに相談に行きました。
紆余曲折のドタバタの結果、エリーは母になります。
――うちの子がうちにくるまで・前話――
ある日、私はソファーでいびきをかいている豚を目撃しました。
――豚??
イエイエ、それは豚ではなく犬。
作者ががブルテリアに心を奪われた瞬間でした。
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
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エリーのその後のお話です
エリちゃん、ほんまありがとう
高校生の頃、家に帰ったら金色の綿毛のような子犬がいました。それがエリー。
やがて大きく成長したエリーは、子犬も産んで最強のオカンになりました。
いつも陽気で元気いっぱいだったエリー。
しかし8歳を過ぎて急に病気がちになりました。
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うちの子がうちに来るまで
我が家が犬を迎えるまでの話